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● 【preview】かぼちゃを巡る冒険  ●



 泉とは最近本当にラブラブだ。
 メールで約束した通り、練習後にやってきた泉は部屋に入るなり浜田の首筋にすがりつくようにしてキスを求めてきた。
「ん……」
 躊躇なく口腔に舌を進入させ、飽きるまで唾液をねだる。
(あー、ホントにエロくなっちゃって……)
 最初のころのおどおどとしたキスがいっそ懐かしくさえ思える。
 唇に触れた瞬間ぴりりと電気が走ったみたいに震えるのがかわいくてたまらなかった。舌を入れれば一瞬身が引く。逃げようとする身体を抱きしめてキスは気持ちのいいものだと教えていく感じが、浜田にはひどく心地よかったものだ。
 あの鉄火肌の泉が、キスひとつで動揺しまくる姿を独り占めできるなんてカレシ特権でなくてなんだというのか。
(それがこんなキス大好きになっちゃって。オレの教育のたまものか?)
 もちろん、恥じらうのもかわいいと思うが積極的にエロい恋人を歓迎しない男はいない。
 浜田は泉の腰を引き寄せながら、そんなことを思った。
「浜田……」
 とろりとした瞳はキスに酔った証拠だ。浜田はこの瞳に弱い。ただでさえ黒目がちな大きな瞳が濡れて誘う。
「浜田……ベッド、行こうぜ」

 どくん、

 聞こえてきたのは泉の鼓動かそれとも自分のか。
「今日は、やめとこうか。最近ヤリすぎててちょっとオレ、反省してんだ」
「なんでだよ? したいのに……」
 浜田の胸に頭を預けてとろりとしている泉は大分魅力的だ。
「いやいや……だって毎晩じゃ、お前の身体に負担かかりすぎだし」
「かかってねえよ、負担なんて」
 息が荒くて、泉がすでに興奮しているのだと思った。
「すげぇ……好き。なんだ、浜田のこと。だから、したい。だめか? それじゃ?」
 泉にしてはきわめて珍しい直球の告白だ。
 浜田は困り果てて、泉の髪をなでる。確かに、顔色は悪くないようだ。
「別に部活休むほど消耗してないし」

抱いておやりよ。抱いておやりよ。

「どっちかって言うと、ここんところ調子いいんだ。絶好調。今、対外試合禁止期間なの、ちょっと惜しいくらいだ」
 泉は笑って、浜田の下腹部に手を伸ばす。
「たぶん、こっちが充実してっからだって、思う。だから」
(だから、お前、エロすぎ……!)

 どくん、

 心臓が跳ねる。
 思わず抱き返す。
「ホントに、身体大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃなかったら言わねーっての。今さら浜田に遠慮なんかしねーよ。第一、こんなことできんの、今だけだかんな」
「え?」

 どくん、

 ちょっとぎくりとして泉を見ると、恋人は楽しげに笑った。
「ったり前だろ? 対外試合解禁になったらモモカン、ダブルヘッダー、トリプルヘッダーで練習試合組むって宣言してんだぞ? 試合感覚を忘れてるだろうから、徹底的に思い出させんだってさ。試合ある日はさすがにできねーもん」
「そ、そっかぁ。そうだよなあ……」
 ちらりと梶山たちの苦々しい表情が思い浮かぶ。
(別に、練習はサボってないみたいだし)

 抱いておやりよ。抱いておやりよ。もっといっぱい、抱いておやりよ。

 何かに背中を押されている様な、そんな感覚があった。
 ちらりと泉を見ると、うるんだ瞳とぶつかる。
(泉、超エロいし……)
「浜田、オレ、舐めてやっから。な?」
 それが浜田の理性の限界だ。
 膝まづいた泉の肩越しに、テーブルにのったオレンジ色のかぼちゃが見える。
 数日前の夜に泉がおみやげに持ってきた、あのハロウィンのジャック・オー・ランタンだ。
(あれって……)
 丸まったネコくらいの大きさのそれは、テーブルの上で結構な存在感を示している。
(あれって、最初からあんなデカかったっけ?)
 目に痛いほどの鮮やかなオレンジは、まるで中にろうそくでも入っているかのように艶やかで明るい色をしている。
((確か、泉が持ってきた時はこいつの手のひらにのっかる位だったはず、なんだけど……)
「……あ」
 テーブルの上に置いたままのオレンジ色のオブジェは、まるで鼓動を打つようにどくん、と鳴動したように思えた。
「よそみしてんじゃねーよ、浜田……」
 だが、それを不審に思うヒマもなく浜田の下腹部に舌を這わせていた泉が笑ってベッドに押し倒した。
 喘ぐ二つの呼吸の隙間で、オレンジ色のかぼちゃは小さく鳴動を続けている。
 途中までは覚えていたその不気味な事実は、泉と抱き合っている内にきれいに浜田の中から消えていた。



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