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● 【preview】Let's go to The THEMA PARK  ●

(いくら大声あげてもアリなのはいいな)
 鉱山列車はあっと言う間に終点についてしまったのだが、短い乗車時間の割にはものすごく声を出し続けていたと泉は思う。
 よくわからないところにあるスイッチが入った感じで、ひたすら笑いながら叫んでいた。声を出すとそれだけでやたらテンションがあがるのは仕方がない。
「次、何乗る?ファストパスまではまだ時間あんだろ?」
 すぐ前を歩きながら浜田が三橋に話しかけている。三橋は「次、は、えっと……」とかばんのポケットから園内マップを出して応えていた。
(そいうや、さっき……)
 斜め前を歩く浜田の横顔を盗み見る。
(あいつさっき、なんか、変なこと言ってなかったか?)
 言葉の意味を咀嚼する前に下り坂に入ってしまったが、確か何かちょっとひっかかるようなことを言われた気がする。
「……」
 あの瞬間のよくわからない感触が一瞬泉の中を走って、すぐに消えていった。
「泉っ!ポップコーン食おうぜ。義姉ちゃんが入れ物がほしいだけだから買ったら中身は食っていいって言ってたから」
 行き交う人の多くが首からポップコーンのバスケットを下げている。確かに他人が食べているのを見ると、そんな気持ちになるものだ。
 それに、なんだかあのバスケットに入ってるヤツは特別おいしそうに思える。これも、魔法か。
「来る時見かけたよな、ポップコーン売ってるとこ。あそこまでちょっと戻って……」
「ちょっと待て、田島。お義姉さんの厚意はありがたくいただくとしても、入れ物ってなんでもいいってことはないんじゃないか?」
 きょろきょろしだした田島に、先を歩いていた浜田が振り返って言う。
「……」
 一瞬だけ浜田と視線が交わされ、そのまますっとはずされた。ごく自然な動作なのに、なんだかちょっと気に入らない、と泉は思った。
「……え?いちいち違うのか?入れ物……」
 たじろぐ田島の脇を黄色いのと青いのと、全く異なるデザインのポップコーンバスケットを下げた女の子が歩いていく。
「違うな。携帯貸してみろ……ほら、やっぱり。田島の義姉ちゃんがほしがってるのは限定版のヤツだ」
 四人して田島の携帯をのぞきこむと、確かに限定版デザインのを買ってくるようにとの指示があった。
「三橋!これ、どこに売ってるかわかるか?」
 泉が尋ねると「う、うんっ!」と三橋がとびあがってマップをあたってくれる。
(あらー、なんかいーチームじゃね?オレら)
 自然に役割ができているのは悪くない気がする。
「ここ……」
 そっと指さされた場所を見ると、幸いそう遠くもないエリアのポップコーン売場だ。
「じゃあ、この辺めがけて歩けばいいか。ファストパスの時間までちょっとあるし、このあたりのライド一個いっとけばよくね?」
 泉の提案に全員うなずく。
 最初はダッシュしたものの、だいぶ人が入ってきている園内ではもうその意味もないと、今度はぶらぶらと歩き始める。
「田島、ホントにこのみやげリストコンプリできんのか?結構オニだぞ、このメニュー」
 改めて液晶が真っ黒になるほど細かい指示を眺めながら泉が言うと「先払い報酬もらったしなー」と田島が苦笑した。
「あと、食い物系のミッションが多いけどほしいのは全部入れ物だから中身は食ってこいってのがおいしくね?」
「あー、まーなー」
 おいしいかおいしくないかで言えばおいしいのかもしれないが、一品ごとに「限定版を買え」とか「これはここでしか売ってないから注意!」と言う文字が踊っているのをみると若干の不安は否めない泉である。
「あった、よっ!」
 前を行く三橋に声をかけられて顔をあげれば、ふわりといい匂いが風に乗って流れてくるのがわかった。
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