WORKS TOP

● プレゼント  ●




 自慢ではないが、泉孝介にとって真剣なオツキアイというのは浜田がはじめての相手だ。
 無事に期末試験も終わったというのに、二日ほどの先生たちの採点休みがあっただけで授業は普通に続いている。なんだか気が抜けるのは誰も同じようで、教室にはなんとなくだれた空気が漂っていた。
 泉はシャープペンシルでノートに思いつくままの単語を書き連ねていく。
(なんでオレはこんな真剣になってんだか……)
 今、自分が恋愛のただ中にいることはわかっている。
 毎日の時間から野球を引き算すると、泉にはほとんど残りがなくなる。
 そのわずかな部分が全部浜田に持っていかれているのがわかる。
 そのことを言うのはあまりにも悔しいから教えてやったことはないのだが、困ったことに小学生当時からの顔見知りで先輩で同級生という悪条件が重なりまくった人間が恋人では、どうやっても泉のこの異常事態はバレてしまう。
 いろいろ筒抜けだ。
 今のことも、昔のことも。
 離れていた一年の間に、何があったのだか知らないが激変しすぎていた浜田の方がやはり有利だ。泉が受験で問題集を前に唸っていた頃、浜田に流れていた時間を泉は知らない。
 浜田だってもちろん離れていたこっちの時間のことを知っているわけもないのだが、なんとなく負けている気がしてしまうのはやっぱり。
(オレが浜田を……だから、だよなぁ……)
 泉はくるりとシャープペンシルを回した。
 自分の心の中のあり様は、春からこっちでいやになるほどわかっている。
 思いあまってバクハツするのがいつになるのかと、戦々恐々としていたらあっさり向こうから告られた。
 しかも、敵はわざわざ泉の誕生日を狙って「好きだ」と言ってきたのだ。
 夢か、もしくは何かの冗談だと頭から決めつけてみたものの、この世がどうにかならない限りどうこうなれるとかいう以前の問題だと思っていた恋が実るなら、ノらなかったらうそだと思った。
 だから「いいぜ」と頷いてみせた。
 それで夢が覚めるとか、冗談が成立しなかった浜田がふてくされるかのどっちかになるはずだった。
 なのに。
 この世はどうにもならなかった。
 浜田はふてくされる代わりに「すげぇ、うれしい」とそれはそれは幸せそうに笑った。
 それでようやく気がついたのだ。

 泉の届くはずのない恋はあっさり叶ってしまったのだと。

 ノーガードで手に掴めてしまった恋愛を、おかげで今どうしたらいいのか全くわからない。現在だって手探りなのに、先のことなんて無理だ。未知数すぎるのにも程がある。

 まだほんのわずかしか経過していない「つきあっているヤツがいる時間」は、それでも少しずつ積もっていく。
 経験値は上がっているのかどうか、それすらも泉にはよくわからない。
(あー、でも……したし、な……)
 一昨日の夜、練習の後で浜田の家に遊びに行った帰り際だ。
 泉は自分の唇にそっと触れてみる。
 玄関のドアを開けようとした時に呼ばれて振りかえり、触れられた。
 唇で。
(……あれは、だよな……キ……)
 思い出すと混乱の極みに達するからなるべく思いださない方がいいとはずなのに、気がつくとあの一瞬のことにばかり考えが及ぶ。
(……キ……)
 何度目か思考停止状態に陥ったことを自覚して、泉は慌ててシャープペンシルを何度もノックしては芯を押し戻すを繰り返した。
 今考えなくてはいけないのはそのことではない。
 泉にとって目下一番の悩みの種は、3日後にせまった浜田の誕生日だった。
(……家、行く。のは、いいとして……)
 浜田の家で思いだす例の一件はこの際向こうに置いておいて、またふりだしに戻る。
(家、行くだろ)
 試験明けで練習はすでに解禁になっているから、行くとしたら夜になる。多分、晩飯を浜田は用意して待っているだろう。
 それは任せていいと思っている。変に遠慮して外食になるよりは内メシの方が互いの懐には優しい。
(一応、飲み物とみやげ……は、肉まんでいいよな?あと……)
 浜田への誕生日プレゼントは何をあげたらいいのか、見当もつかない。
 毎日練習で何かを改まって買いに行く時間もあまりない。わずかな時間で目的を達成するためには事前のイメージトレーニングが肝心だが、考えようとすると思考が止まる。
(……バッティンググローブ。は、なんかビミョーだよなあ。スパイクのひも……はいくらなんでも安すぎるし)
 頭の中に次々と浮かんでくるのは、野球用品ばかりだ。
 これが浜田が現役ばりばりの選手なら迷いはないのだが、今現在の立ち位置を考えると「これは誕生日プレゼントだ」といって渡すのがアリかナシかが泉には判別がつかない。
 少なくとも浜田はすっかり割り切って応援に専念しているように見えるから、もしかしたらそんなことをいまだに考えてしまうのは泉のケチなこだわりなのかもしれない。
 胸の中にいるのは、遠くに見える誰より頼もしいと憧れていた背中と自分のことを「好きだ」と告げるあの声と、両方だ。
(困った……)
 予算は限られている。
 野球用品を候補から外して考えようとすると、なまじっか普段の生活を熟知しているせいで『米』だの『みそ・しょうゆ』だの色気以前のものしか浮かんでこない。
 シャープペンシルで書いた生活感あふれるプレゼント候補に斜線を引いて、泉はまたうなった。
(ホントに、浜田に何をあげていいのかわかんねー)
 隣の女子の机の横に下がったトートバッグから編み棒が顔を覗かせている。クラスの女の子たちの間で今、編み物が爆発的ブームなのは知っている。誰にあげるのか、カレシありなしに関わらず、少しの時間を惜しんで編み棒を動かしている様子はなかなか心が躍る。
(……そんなマネはムリだ)
 手作りマフラーについては、実は中学の時に一度だけもらったことがある。正確に言うと見知らぬコが突然「これ、もらってください!」と気迫満々でつきだされたのを思わず手にしてしまった。
 泉の手にマフラーが渡ったとたん「ありがとうございます!」と気合い一発叫んだ彼女は、名前も告げずに真冬の道をいいダッシュで走り去った。おかげで、泉は未だに初マフラーの贈り主の名前も知らない。なんだか捨てるのもしのびなく、かといって使うのもなんとなく気が引けて、仕方なくタンスの引出しの一番奥にしまいっぱなしになっている。
(女子ってすげー)
 それに比べて男はチキンだ。
 そもそも恋愛に向かう時の地力が違うのかもしれない。
(なんかねーかな。浜田が絶対ぇ喜びそうなモン……)
 ノートに書いては消されていった候補を見ながら、泉はまた考える。
 まだつきあいはじめたばかりだというのもあるが、実は今のところ、部活やらテストやらでほとんどデートらしいデートをしたことがない。
 二人で会うのは、部活の後で浜田の部屋に遊びに行くとかバイトあがりのところを待ち合わせて、コンビニの前でしゃべるとか、その程度だ。
 浜田はあれで案外王道好きだから、ちゃんと待ち合わせをして出かけて、というのをしたがっているのかもしれない、とふと思った。
 あえて言わないだけで、あれは間違いなく過去にオンナがいた時期がある。と、泉は思う。実際、中学の時もその前も、浜田にきゃあきゃあいっている女の子をよく見た。
(あのバカは、押しに弱ぇからなぁ……)
 泉に特攻をかけてきた女子がいる位だ。浜田ファンのコがそれをしなかったとは思わない。
 そして、きっと浜田はその想いの中のひとつを選んだに違いなかった……根拠はないのだが、泉はそう思う。
 想像の中の浜田がにっこりと笑っている。
 泉にではなく、待ち合わせ場所に近づいてくる彼女に向かって、だ。
 それはひどく優しくて、いつくしむような眼差しだ。泉にはそれがよくわかる。待ち合わせのコンビニで、夜訪れた浜田の部屋の玄関で、泉に見せるあの瞳だ。
 もっと早く来れたらよかったな、とつい思ってしまうような、あの笑みだ。
 そうして二人並んで、浜田と彼女は歩きはじめる。
 すれ違った人間は誰もが「ああ、カップルか」と二人のことを認識するのだ。
 コースはたとえば、グリーンセンターとか野鳥の森、今の時期ならばけやき広場あたりだ。
 二人してゆっくりゆっくり歩く。時折互いに笑いあいながら。
「……」
 なんだか少しいらついて、泉はシャープペンシルを何度もノックする。
 この夏の応援団姿は腹が立つくらい様になっていた。初戦の翌日にあった球技大会では、もう「団長さぁん!」と呼ぶにわかファンの声を聴いている。
「……」
 いらつきは収まらない。
 なんなら少し後ろの席に座っている浜田に、消しゴムでも投げつけてやりたくなった。
 息を整えて、泉は投げつける代わりに浜田へのプレゼント候補たちを消しゴムで一気に消してやった。
 少しすっとした気がしたが、事態は何も変わらない。
 やっぱり、つきあってるというからにはデートくらいはした方がいいのかもしれない。
 誕生日なのだし。
(デー……ト、かぁ……?)
 その単語がもう恥ずかしくてならない。耳まで紅くなっていることを泉は意識してしまう。
(けど、なんか浜田、よろ……こびそーだよ、なぁ……)
 様式美は礼賛するタイプだ。
 泉としては、それで浜田が喜ぶのなら問題はない。
 だが、どうも想像がつかない。
 第一待ち合わせをしてどこかに行くまではいいとして、そこで何をするというのか。
 ただ一緒に歩けばいい、というものでもないだろう。
(映画観る、とか……ちょっと待て、今何やってんだっけ?)
 お正月映画はもう公開していただろうか。
 考えようとして、泉は重大な事実にぶつかる。
(……オレ、練習あるじゃねえかよ)
 試験は明けた。当然毎日練習はあるし、浜田の誕生日だからといって休みになるわけがない。
 休むわけにもいかない。
「……」
 これでまたふりだしに戻ってしまった。
 浜田は泉の誕生日に、グラブの手入れ道具一式と「好きだ」という言葉をくれた。
(……絶対ぇ、ずりぃ。あいつ……)
 泉が喜び、かつ絶対失敗のないものを先に渡しておいてウィニングボールをずばりと決めてくる。
 いいピッチャーが絶好調で「ここしかない」というところにいいボールを決められたら、打者はどうすることもできない。
 泉は再び、ノートに向かう。
(じゃあ、どーすんだよ……)
 浜田がくれたものを参考にすると、やっぱりちょっとしたプレゼントに後だしの「何か」というのは悪くない考えだと思う。
 たとえば、先に肉まんとか丸大豆しょうゆをあげておいて、一瞬がっくりさせておいてから、実は本命は「これ」とやって驚かしてやるのはいい考えだと泉は思った。
 もっとも、浜田の先手プレゼントにだって泉は充分、普通に喜んだのだが。
 そろそろいいヤツを買おうと思っていた矢先に、どんぴしゃのタイミングでもらったのがグラブの手入れ用具セットだったから、おおはしゃぎしてしまった。その後で、いきなり告白されて落された。
(……で、「これ」ってなんだよ?)
 後だしが空振りすると目も当てられなくなる。浜田の後だしは卑怯の領域に入るような、告白だった。
(まあ、それでつきあうことになったわけだし……じゃあ、つきあってる今なら、なんだよ?)
 また熟考に入る。
「……」

(…………)

「……………」

(……………オレ?)

 最後の最後にぽつりと浮かんだ単語なら、実を言えば最初から腹の中にはあった。
 だが。

「……ねぇな、そりゃ」

 思わず声に出して言ってしまう。

「そうか、泉。今の解が『ない』って思うのか。じゃあ、次の問題はどう解く?前に出てきてやってみろ」
「……え?」
 数学教師が、にっこり笑って手招きをしている。
 西浦の数学担当は、鬼と仏がひとりずついる、というのが常識で、仏とはすなわち野球部の責任教師・志賀のことを指す。そして、鬼というのは泉を手招いている一年九組の数学担当教師に違いなかった。
「……うぅ」
(浜田の野郎……覚えてろよ……)
 何の責任もないのはわかっていても、ついつい恨みのこもった視線を浜田に投げた。
「……?」
 もちろん、浜田は何の事だかわからないという表情をしている。
(浜田が悪い)
 結局黒板の前で鬼に「ごめんなさい」と謝るはめに陥った泉は、無策のまま浜田の誕生日当日を迎えることになってしまった。



「どうしよう……」
 練習の間はよかったが、着替えてみんなと別れてから自転車のペダルを漕ぐ足が重い。
 まだ結局何も用意していない。
 かといっていきなり「誕生日プレゼントは、オレ」なんてことは死んでも言えない。
「大体、オレってなんだよ、オレって。ばっかじゃね?そんなことちょっとでも考えたオレってばっかじゃね?」
 コンビニの灯りが見えてくる。
 これを逃したらもう、浜田の家まで何かを買える場所はない。
 泉は自転車を停めた。
 ここはもう、全国チェーンのコンビニにかけるしかない。
 最近のコンビニはあなどれない。主に浜田がびっくりするようなしゃれたもののひとつやふたつ売ってるに違いない。
 泉は勢いこんで店内に足を踏み入れる。
 店内はヒマそうな店員が二人と、立ち読みの大学生風の男がひとりいるだけだ。
 とりあえず店内をひとまわりしてみたものの、パンもおにぎりの棚もすかすかで、ろくなものがない。どうやら一番最悪な谷間の時間のようだ。
 せめてケーキでも、と思ったのに残っているのはシュークリームがひとつきり。
「……生クリームがねぇ。いちごもねぇって、どういうことだよ」
 せめてホイップクリームが立っているやつならよかったのに、そういう華やかさが感じられるデザートは残っていなかった。
 クリスマスを目前に控え、結構いちごショートが品揃えされているのは知っていたのに、姿がない。
「どこのどいつだよ。買うなよ……」
 絶望のあまり泣きたくなった。
 が、手ぶらというのも避けたい。今度はお菓子のコーナーに行ってみたものの、どうもぴんとこない。
 マンガはどうかと思って雑誌コーナーに移動してみたが、女性誌とエロ本ばかりが充実していて、これもいまひとつだ。
 ちらりとこの前の数学の時間によぎった例の案が頭をかすめる。
「プレゼントはオレ……プレゼントはオレ……プレゼントはオレ……だめだ、やっぱありえねぇ」
 雑誌コーナーのところで座りこむと、大学生風の男が怪訝な顔で泉を見た。
(やっぱあれか?プレゼントはオレ、しかねぇのか?)
 多分そんなことを言ったら、その場で死ねる。
「ああ、どうしよう……」
 がっくりしたままようやく立ち上がり、せめてシュークリーム位買っていくか、それとも肉まんか、とレジ前を通ろうとして、ふとそこに置いてあったものに目が止まった。



「これ、やる……」
 とてもじゃないが「プレゼントはオレ」だけは言えそうにない。
「これ、誕生日プレゼントか?」
 浜田の目がきらきら輝いている。自分の誕生日の晩さんを用意して、浜田は泉を待っていた。
 部屋のドアを叩いたら、すっ飛んで来る足音が聞こえて勢いよく目の前の扉が開く。
 もうそれだけで、浜田が自分のことをずっと待っていてくれたのだとわかって……うれしい、と泉は思ってしまう。
 泉は招き入れられた部屋で、マフラーも外さずに手にしていたコンビニのレジバッグを差し出した。
 浜田のうれしそうな声に「誕生日プレゼント、だけど、部活で買いに行くヒマとかなかったから……」と声が尻つぼみになってしまう。
(やっぱ、ちゃんと買いに行けばよかった……)
 あまりにうれしそうな様子に、すぐそこのコンビニで買ってきたものを渡すのは気が引けた。
 ただ、間に合わせで買ったわけではなくてそこに至る長い道のりはあったのだが、それを言うのもどうかと思って結局口ごもってしまう。
「おおー、季節モノ!」
 浜田がレジバッグから取り出したのは小さなクリスマスツリーだった。
 真っ白で、青い小さなボールがいくつもついていて、てっぺんあたりには真ん中に銀色のベルがふたつついた銀色のリボンがついている。
 正直、浜田の部屋の中では浮きまくるだろうと思ったのだが泉には目に入ったそれ以外すがるものはなかったのだ。
(あー、予想以上に浮いてんなぁ……)
 おまけに改めてみると、実に安っぽい。浜田がくれたグラブの手入れ用具とはものすごい差だ。
 浜田はなのにさっそくラックの上のいい場所に置いて、眺めては喜んでいる。
「ありがとな。オレ、すげーうれしいよ」
「……ウソつけ」
「ウソじゃねえっての。これは泉がオレのためにいろいろ考えて選んでくれたもんだろ?なら、うれしいって思わないわけないって」
「あ……」
 顔が紅くなる。
「その……誕生日、おめでとう」
「ありがとな。泉、腹減ってんだろ?手洗ってうがいしてこい。今日は、豚しゃぶな」
「お、ゴーカ版じゃね?」
「だろー?オレも腹減ってんだ。早く食おーぜ」
 さっさと台所に戻る浜田の背中を見ながら、泉はなんだかとてもいい気分になった。
(言わなくて、いいよな……)
 本当にどうしようもなくて、いざとなったら「プレゼントはオレ」をやろうかと思っていたのだが、その必要はなさそうだと思った。
 第一、そう言うのはいいがその先のことを考えると思考が止まる。
 夕べプレゼントの件で追い詰められた泉は「プレゼントはオレ」の場合どうなるのか、一応調べてみたのだ。
(あれは……オレ、ムリだぞ、浜田)
 たどり着いたところが悪かったのか、ほんの一分ほどの動画が今も頭に焼きついて離れない。
 まだ年若い男が喘ぎ声をあげていた。
 AVを観たことならもちろん何度もある。女の人の白い身体の代わりに、ごくごく普通の若い男の身体が中年の男に弄ばれ、喘ぎ、そして……
 どうしてもあれを自分のことに置き換えられずにいる。
(もうちょっと、待ってくれ、マジで)
 待ってもらってももしかしたらダメかもしれないと、ちらりと心の片隅で思ってしまうのは、まだ仕方がない。
(オレら、始まったばっかだしな)
 それはとても卑怯な考えかもしれない、と泉は思う。
「なぁ、浜田ってオレのどこが好きなんだ?」
 豚しゃぶの合間にずっと疑問だったことを尋ねてみたら、浜田は笑って言った。
「わかんねーけど、泉のことだけは無闇やたらと大事にしてーなって思うんだよな」
「……うん」
 泉は頷いて、ごまだれに豚肉をひたす。
「来てくれてありがとなー。今年はいい誕生日だ」
「……ああ」
(ホント、こいつって卑怯だ……)
 まだはじまったばかりの時間はこうして積み重なっていくのか、と泉は思う。
 目の端にある白い小さなツリーは、きっとずっと浜田の部屋に飾られたままになるのだろう。
 そして多分、あれが部屋の一番いい場所にいる限りは、自分たちの恋は続いて行くのだと泉は思った。
(キス……したいかも……)
 先日、まだたった一度触れただけのあの唇に触れたい、と泉は急に思った。
(キス……したいぞ?)
 そうして、泉はこたつのはす向かいに座る浜田に声に出さずに後だしを試みるのだった。
 泉の後だしに浜田が気づくかどうかは、定かではない。
WORKS TOP