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● 恋の風景  ●




「やばい、よな……あれ……」
 巣山は激しい心臓の鼓動を少しでも沈めようと、拳を握りしめて胸にあてる。
 手に直接伝わる心音は、巣山の動揺をそのまま写しとってでもいるかのようだ。
 瞼の裏にはたった今見てしまった光景が何度もフラッシュバックしてくる。
 別に巣山自身がうかつだったわけではない。
 たまたま日直で、偶然その時間には地理で使う大きな地図を取りに社会科準備室に行かなくてはいけなかった。どうせ一本だけなのだからと、同じ日直の女子から「男なんだからアンタ一人で行け」という無言のプレッシャーを受けての単独行だった。
 思えばそれは幸運だったのかもしれない。
 入学してからほんの数ヶ月だが、クラスの女子の中でもちょっと苦手意識のある今日の日直女子の口はポテチ一枚よりずっと軽い、と巣山は読んでいる。
 巣山が見た光景を彼女が見ていたら、今頃校内は大騒ぎになっていただろう。
 それは困る。
 すごく、困る。

 社会科準備室は校舎の四階の端の方にあって、社会科の教師たちが駐在している社会科部屋からも少し離れていた。特別教室と各科準備室が並ぶフロアは、真っ昼間なのにあまり人気がない。
 遠くに校内の喧噪を聞きながら、巣山は準備室の中で一人、大判の地図を探した。
 そう広い部屋でもない。すぐに見つかると思っていたのだが、想像以上にたくさんの地図の種類があったのと、どうやら前のクラスの日直がぞんざいな置き方をしたらしくなかなかユーラシア大陸が見つからない。
「どこだよ……」
 少しいらつきながら、準備室の奥に足を踏み入れる。
 と、カーテンが開け放たれたままの窓からコの字型になっている向こう側の棟の様子が目に入った。
 巣山は昔から目がいい。
 自分でも打率を上げている要素の一つは視力にあるんじゃないかと思っているくらいだ。
 だから、中庭を挟んだ向こう側の校舎の対面になっている部屋の中に誰かがいるのがちゃんとわかった。
 男子学生だ。人数は二人。
 向こう側にあるのは確か、図書準備室。
 カーテンは社会科準備室同様向こうも開きっぱなしだ。小さな準備室の隣、壁を隔てた向こう側の図書室には数名の生徒がいるのが見える。
 だが、準備室の方には男が二人いるだけだ。

 しかも。

 その二人のことを、巣山はよく知っていた。
 一人は巣山のチームメイトだ。身長はあんまりないが、足が速くて出塁率が高い一番。守備範囲はもっとも広いセンターを任されている。
「……泉?なんであんなとこにいるんだ?」
 遠目でもすぐにわかった。泉が読書家だったとは知らなかった。だが、本を読みたいなら隣の図書室にいるもんだろう?と巣山は首を傾げる。
 西浦のセンターは要領のいいタイプだから、まんまとクラスの委員の全部をかわしたのは知っている。
 残りの二人、三橋は逆に委員を無理矢理押しつけられるタイプだし、田島は逆に目立ちすぎて面倒な役所を結局やることになる感じだ。
 実際、春先にはそうなりかけたらしい。
 ただ、エースと四番によけいな仕事をさせられないと、結局クラス内に根回しをして委員着任を回避させたのは、中庭を隔てた向こうの部屋に泉と一緒にいるもう一人の男子生徒……応援団長の浜田の功績だと、あとから泉に笑って教えられた。
 浜田も委員逃れには当然成功しているというから、これはもう年の功としか言いようがない。
 図書委員ではないはずの二人が一体、図書準備室でなにをしているというのか。
 巣山は社会科準備室から対面の二人に手を振ろうとした。

 が。

「え……?えええ?」
 巣山の目の前十数メートル先のガラス窓の向こうで、何か話していた泉の腰を浜田が引き寄せた。そうしてそのままあおのいた泉の唇に浜田のそれがゆっくり重なっていく。
「え……?マジか?」
 反対側の窓から巣山が見ていることなど思いもよらないのだろう。
 二人のキスは深くなっていく。泉が浜田の首に腕を回して引き寄せ、浜田は泉の体を固く抱く。
 どう見ても、熱烈な恋人同士のキスにしか見えない。
 どちらかが強制してやっているわけでもなければ、冗談や遊びの延長で(巣山はそんな遊びや冗談をしたことは未だかつて一度もないが)しているそれではない。
 少し顔が動いて、キスを終えたのかと思ったら互いに吸い寄せられるようにまた唇を重ねている。
 明らかに今日はじめてその行為を知った人間のものではない、と思った。
 泉と浜田はこれまでに幾度もああやってキスを重ねてきている。
 巣山はとっさにそう思った。
 もちろん細かい表情までが見えるわけではない。だがなんとなく、二人のキスはお互いを想いあっているその延長にあるような気がした。
「つきあってたんだ……二人……」
 友だちがキスをしているところを見たのは、生まれてはじめてだ。
 キスの後で浜田が泉に笑いかけている。泉は逃げようとせずに、何か応えていたが最後にはまた浜田とキスをしていた。
「やばい、よなあ……」
 仲睦まじいその様子に、よくグラウンドの隅で見かけているケンカ友達の雰囲気とは明らかに違う空気を感じた。
 いくらなんでもあれを見れば、泉と浜田が互いをどう想いあっているのかわかる。
 一歩後にさがると足下に、探していたユーラシア大陸の地図が転がっているのに気づく。
「なんだよ。こんなとこに転がしとくんじゃねえよ」
 全く感情ののらない文句を言いながら床にしゃがむ。
 しばらくそのままじっとしていた。

(浜田と泉はつきあってる……んで、間違いないんだよな。デキてる……デキてたんだあ……)

 野球部の練習は、他の運動部と比較しても明らかに過酷で、部員にはカノジョを作るヒマなどあるわけがないと思っていた。実際、色っぽい様子は部員たちの誰にも見あたらない。
「いや、カノジョじゃないし」
 ああいう場合はカレシと言えばいいのだろうか。
 少なくとも、色気のいの字もない同志だと思っていた泉にはちゃんとキスをする相手がいて、同じように練習に明け暮れる毎日の中で恋人と過ごす時間をきちんと見つけていたということになる。

「なんか、ショックだ……」

 友だちがホモだったという以上に、無力感と敗北感に襲われている。
 相手がしかも浜田だったというのは、意外だ。
 巣山は筒状に巻いてある地図に貼られた「ユーラシア大陸」と書かれた文字をなんとなくなでてみる。

(いや、意外じゃないのかも。そういえば泉って、浜田のこと過剰に意識してっとこあったし)

 だが、それを言うなら泉は水谷のことは必要以上におもちゃにしているし、エースと四番に対しては人一倍目を光らせているし、阿部には冷たい。
 ひとつひとつを「意味ある態度」と思ってしまえばなんだって「そう」見えてしまう。
 浜田に対しての泉の態度だって、巣山にしてみればそれらと種類が同じもののひとつにしか見えなかったのだ。
 もちろん、泉が自分以外の部活の連中とまんべんなく抱き合ってキスをするような関係になっているとは思わない。

 きっと、浜田だけが泉にとって特別で浜田にとっても泉だけがそういう存在なのだろう。

「そっか……」
 一抹の寂しさがよぎるのは、毎日同じようにボールを追いかけてる友だちがちゃんと恋愛をしていた事実に、おいてけぼりにされているようなその感傷だろうか。
「オレって……見る目ねえなあ」
 人生修行がまだまだ足りないということだ。こんなことでは、相手チームのバッテリーの裏をかくことなんかできないかもしれない。
 やっぱり落ち込んだまま、巣山は床に転がされていたユーラシアの地図とともに立ち上がる。
 ため息をついて、なんとなく気になって振り返った。

「……っ!」

 窓の向こう、中庭を隔てた校舎の窓。
 泉を抱きしめる浜田の目は、まっすぐに巣山のいる社会科準備室を見ていた。
 一瞬、はっきりと目が合う。

「まずい……っ!」

 別にそのつもりはなかったのだが、結果として二人の様子を盗み見していたことになる。
 巣山はそのまま無理矢理浜田の視線をはずすと、回れ右をした。

(今の、絶対ばれた……よな?)

 背中を冷たい汗が流れていく。
 巣山自身には落ち度はないなのに、罪悪感でいっぱいになってしまった。
「やべぇ」
 大きな地図を小脇に抱えるようにして大股に歩く。その歩調は心臓の鼓動と一緒にどんどん速くなっていった。



 そのうちくる、と覚悟していた浜田からのコンタクトは、その日の夜にさっそくきた。
 ちょうど、巣山が家に帰るのを見計らったかのように、携帯が鳴る。
 ぎくりとして着信を告げるランプが光る携帯をにらむ。
 水谷に勝手に設定された「野球部関係者」の着信音は野球をテーマにして大ヒットした映画のテーマソングだ。水谷は「これがオレのマイブー」と言っては巣山の携帯の着メロを変えてしまう。特にそのことに異存はないのだが、これから先このバンドの曲を聞くたびにキモが冷えそうな気がして、ちょっとだけ水谷を恨みたい気持ちになってしまった。
 覚悟はしていたし、たぶん相手は浜田と確信していたが、実際に液晶のサブディスプレイに浮かぶ文字を見ると一瞬ひるむ。
(見ちゃったのは偶然だし、オレはしゃべる気ないから)
 自分の中で整理したことを確認する。
 それから、背後で母親が大声で「早くお風呂入っちゃってよー!」と叫ぶ声を遮るように小さな電話を手で隠しながら、通話ボタンを押した。

「巣山?浜田だけど」

 電話の向こうは少しざわついている。車が通り過ぎるような音が巣山の耳を打った。だが、浜田の声はそれとは裏腹にひどく落ち着いていた。
 少なくともあわてふためいて電話をかけてきたわけではないとわかる。

「はい。わかります」

「敬語はいいよ。ちょっと外出れっか?今、たぶん巣山んとこの近くのコンビニにいっから。えーと、国道沿いのドライブスルーのマックとブックオフが併設してっとこ。あ、マツキヨも。そこのコンビニ」

「え?」

 まさか直接乗り込んでくるとは予想外だった。
 たぶん、部活の名簿を見て近くまで来たのだろう。確かに浜田が指定した場所は、巣山の家からほんのわずかの距離にある。
「場所わかるか?」
「わかる。三分待ってくれ」
 浜田の本気を感じて、巣山は即答する。
「さっさと風呂に入れ。そして晩飯を片づけろ」とすごむ母親をやり過ごして、財布と一緒に自転車と家の鍵だけ持って外に出た。
 もちろん腹は猛烈に減っているが、それよりなによりこっちの方が重要だということはわかる。
 ネクストにいる時みたいに、胸がどきどきした。興奮している。たぶんこれから自分は人生ではじめての状況に立ち会うのだとわかる。
 未知の経験はいつだってこんな気分にさせられる。

 予想通り、コンビニの前に座り込んで待っていたのは浜田ひとりきりだった。
 なんとなくそんな気がした。
 泉は昼休みのできごとを目撃していた人間がいることを知らないに違いない。
 知っていたら、あの性格だ。絶対に一緒になって……いや、たぶん浜田みたいに密かに一人で乗り込んでくるに違いない。

(あ……)

 それは、自分の好きな相手によけいな心配をさせないためだ。

(そっか……浜田も……)

 少し険しい顔をしていた浜田は、巣山の姿を認めると苦笑した。
「っす。悪ぃな、練習後で疲れてる時に」
「いや、いい」
 浜田は再び「ごめんな」と言って、お詫びの印らしいアクエリのペットボトルを巣山に差し出した。自分は半ば飲み干したコーラを持っている。
 素直に厚意を受け取ると、一気にアクエリアスを半分まで飲み干してしまう。それで、自分ののどがひりひりに乾いていたことを巣山は知った。
 目の前の国道を車が流れていく。もういい時間なのに交通量は多い。こんな風景を見ているとCO2削減がどうこうというのは到底不可能なんじゃないか、となんとなくそんなことを考えた。

「昼間……オレと泉が一緒にいるとこ、見ただろ?」

 前置きなしにいきなりストレートがきた。
 泉の話では浜田は速球派のピッチャーだったらしい。なんとなく頷ける小細工なしの初球だと思った。
「見た。日直で、社会科準備室に地図取りに行ってて、偶然に」
「そっか……」
「オレの他には誰もいなかったよ。他の部屋はどうか知らないけど、人の気配は周囲にはなかった……って思う」
 浜田は苦笑して「ありがとな」と言った。
 少し沈黙すると、再び切り出す。
「オレと泉、つきあってるから。いろいろあったけど、まあ、正式にはオレが援団作ったころからかな」
「……そっか」
 はっきり言われるとどう反応していいかわからない。泉はチームメイトであって、巣山が密かに恋いこがれていた相手というわけではない。
 友だちに恋人ができたと聞けば喜んでやるのが筋だろうが、この場合もそうなのか、経験値が足りなくてよくわからないのだ。

「キモいか?」

「そんなことは……ないな。びっくりはしたけど」
 正直なところを言えば、浜田は「サンキュ」と笑った。
「ごめんな。見たいと思うようなもんじゃないのはわかるからさ、不用意に学校であんなことしてたオレらが悪い。うかつだった。これからは気をつける」
 浜田はそう言った。
 巣山はじっと話に聞き入る。
「巣山みたいに言ってもらえたら助かるけど、さすがにみんなに言うわけにはいかねーんだ。ヒくヤツがいたってオレらはなんも言えねーし。チームプレイのスポーツだからな。泉によけいな気をつかわせてもかわいそうだし」
 男の友だちがやっぱり友だちの……男とつきあっている、という事実に直面したのは生まれてはじめてだ。この先同じ状況に出くわすことはまたあるのだろうか?
 巣山はそう考えた。
(ないだろうなあ……)
 自分の人生において、たぶんこれはセイテンノヘキレキというやつだ。あまりのことに、感覚がマヒしている気がする。
「だから」
 浜田はごくまじめな顔で言った。
「だから、巣山、よけいな気を使わせて申し訳ないけど、このことはみんなに黙っててほしい。泉にもだ」
「……泉は、オレが見てたって知らないんだ」
「背を向けてたからな。気づいたのはオレだけだ。頼む、黙っててくれ。オレにできることがあればなんでもするから」
 浜田は巣山に向かって深々と頭を下げた。巣山はいきなりのできごとに面喰ってしまう。
(なんでもするって?え?なに?これってそんな深刻なことなのか?)
 予想通り泉は巣山の視線に気づいておらず、浜田は事実を相手には隠したままで乗り込んできたらしい。
 泉と、泉との関係を守るために。
 もちろん巣山も浜田に昼間の口止めを頼まれるのはわかっていたが、まさかいきなり頭をさげられて「なんでもするから頼む」なんて言われるとは思わなかった。
 それにこの場合の「なんでもするから」は、水谷が「宿題を写させてくれ」と頼む時の「なんでもする」とはわけが違う。
 重すぎる。
「ちょ……それはやめてよ。勘弁してくれ。頭上げてくれよ」
 ようやく浜田の頭を上げさせることに成功した巣山は、ため息をついた。
「そんなに、泉のこと……好きなんだ」
「……じゃなきゃ、野郎となんかつきあえっかっての。オレ、去年はカノジョいたんだぞ?」
 浜田がぽつりと言う。少し頬が紅くなっているような気がした。
(なんかもう……必死なんだ、浜田は)
 そう思ったら、マヒ状態の心に違う気持ちが芽生えた。
 巣山は苦笑してしまう。
「泉のこと、ホンキなんだね」
「当たり前」
 即答に巣山は笑った。
「なんか、すごい。オレら、練習ばっかでレンアイとかそんなヒマねー、って思ってたのになあ」
 そうして、巣山は浜田からもらったアクエリアスをこくりと一口飲む。
「こればっかりはなー。出会い頭の事故みたいなもんだし。いや、オレと泉の場合はちょっと違うかな。巣山が聞きたければ話すけど?」
「いや、いいよ。さすがにそんなディープな話聞いたら明日練習でどんな顔して泉に会えばいいかわかんないし」
 言って巣山は立ち上がる。
「いいよ。言わない。てゆーか、別に誰に言うとか思ってなかったし」
「悪ぃ。巣山はそういうタイプじゃないだろうなとは思ってたけど。一応一言入れずにはいれなかった。そっちもすげぇ、失礼だって思ってるから……ごめんな」
 浜田が再び深々と頭を下げる。巣山はあわてて「いや、そういうのホントにいいから。頭上げなよ」と浜田の肩をつかんだ。
 国道を通る車の中の人がみんなこちらを見ている気がした。
 浜田のことをすごくよく知っているというわけではないが、普通に男だし男だからこそ簡単に人に頭を下げたりはしないとわかる。
(それが、泉のためにならあっさりだもんな)
 昼間の光景が頭に浮かぶ。
 泉を見つめる浜田の目は優しそうだった。遠目で見てもわかるほどに優しくて柔らかだった。
 ふと、口をついて言葉が漏れる。
「泉は結構幸せ者なんじゃないの?そこまで惚れられてさ」
 やっと姿勢を直してくれた浜田に言うと「そんな風にあいつが思ってるわけねえよ」と照れたように笑った。
 何度も巣山に向かって「ごめんな」「悪かったな」と繰り返した浜田は、その度に「言わないよ」「大丈夫だから」と応えたことにようやく安心したらしい。
 最後に「ホントにありがとな」と言って笑ってくれた。
 その場で右と左に別れる。
 巣山は一人、ゆっくりと家に向かう自転車のペダルをこぎながら考える。
「やっぱ、泉って幸せ者なんじゃないかなぁ……」
 友達がホモだったという事実を、案外すんなり受け入れている自分を自覚しながら巣山は思う。
「だってあんなに浜田が泉のこと好きなのわかったらさ、やっぱりうれしいと思うんだよな……多分」
 巣山は泉が部内でも指折りの負けず嫌いで、男っぽい性格をしていることをよく知っている。気が強くて度胸があるから一番を打つことが多いのだ。巣山はあまり経験がないが、自分がバットを構えるやいなや試合開始のサイレンが鳴ったらそれはそれはびびると思う。
(だけど、全然びくともしないで立ってるもんな……当たり前だけど)
 その泉がちょっとやそっとのことで、素直に男に身をゆだねるとは考えられない。
 でも、泉は浜田を選んでいる。
 たぶんそれ以上の真実はないのだろう。
「あー、なんかうらやましくなってきたな」
 やっぱりなんだかんだ言っても好きな人がいて、その人も自分を好きでいてくれているという事実は単純に羨望の的になりうる。
 残念ながら巣山には今のところそういう予定はない。
 泉たちみたいに恋する相手が男、ということはまさかありえないだろうが、もしも恋人ができた時にはさっきの浜田のようなあんな表情を自分もするのだろうか。
「なんか、すっげー男、って感じだったな」
 好きな相手がいて、その人を守ろうと思った時にあんな表情になれるのなら、まだ出会っていないだろうその人に早く会いたいと巣山は思う。
「できっかな?あんな顔」
 きっと明日から、懸念されたのとは別の意味で浜田たちを観る目が変わりそうだと巣山は思った。

 もちろんその理由は、先を越されてしまったという若干の悔しさがあるから絶対に言わない。
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