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● 君、帰る〜2  ●




 文句は結局言えなかった。
 佳主馬の咥内に、先ほどまでの行為で高ぶっていた下半身をくわえ込まれてしまったのだ。
「あ……ッ」
 のけぞって強烈な刺激に耐える。最初の時から、この行為を佳主馬は躊躇わなかった。むしろ積極的に、口を使って健二の快楽を煽りたがる。
 佳主馬にとって、健二の身体に忌避を感じるところは「どこもない」のだそうだ。
「髪の毛一本まで、全部好き」と、真顔で健二に言う。
 佳主馬は気持ちを隠さない。
 多分他人に対してはどこか距離を置いたり、クールに振舞うのが流儀なのだと思うが、健二にだけは隠さない。
 饒舌なわけではないが、気持ちを伝えることをためらわない。
 おかげで健二はすっかりぐずぐずだ。
 毎日聞かされる甘い言葉に、脳の芯までやられている。こんなに甘やかされてしまっては、きっともう佳主馬のいない日々には戻れないのだろうと思っている。
 戻りたくもない。
「あ……あ……あ……」
 深く飲みこまれ、窄められた咥内を使って追い立てられて行く。かと思えば、外に吐きだされ舌が根元からゆっくり形を確かめるようになぞっていく。
 ちらりと視線を落とすと、頬を上気させ瞳を潤ませた佳主馬が健二のそれをくわえているのをまともに見てしまった。
「あ……ッ!」
 隠すことのない欲情を湛えた表情に、一息で持って行かれそうになる。
「一度、出す?」
 妙に冷静に聞こえる佳主馬の声にふるふると首を横に振った。
 ぱんぱんに腫れあがったそこが痛いくらいで、耐えられるかどうか、という感じなのだが、多分ここで遂精してしまうと後がもたない。
 大きく息をあげながら、必死に自分の窮状を訴えるべく、その人を見つめる。
 佳主馬が微笑んだ。
「好き」
 言いながら、健二の先端にちゅっと唇をあてる。
「や……あ……ッ!」
 ぞくり、震えが走った。
 途端、一気に濁流に飲み込まれる。腰の奥がひきつれる様な感覚と共に、堰きとめようと必死になって守っていたたがが外れる。

 達く。

「あ……あ……あ……ッ!」
 ひくひくと腰が勝手に痙攣する。内側でいっぱいになった熱が解放されていく快感に、力が抜けていく。
「はぅ……っ」
 達したばかりのそれを扱かれながら、唇を重ねられた。恋人に文句のひとつも言いたいのだが、心地よさに負けてしまう自分がイヤだ。
 下腹部で自分が放ったものがぬめる、いやらしい音がする。
「ん……っ」
 そのまま佳主馬の手で内側の熱を全て搾りとられていく。遂精を無理やり長引かされているようで、気持ちいいのになんだか口惜しい。
 格闘家の指は節が太い。長さだけなら、健二とそう変わりがないように思えるのにやはり違う。その手で身体を弄られると、健二は理性がとぶ。
 ほんの少しも健二を傷つける気はないらしい佳主馬は、それからいつの間にか持ってきていたらしいローションのぬめりを借りて内側に指を送りこんできた。
 幾度も唇を重ねながら、徐々に奥へ佳主馬が入ってくる。
 節の部分とそうでないところの差異が、最近健二はコワい。内側で動かされて、それがわかってしまうのがとても怖い。
 佳主馬の指だと思うと、ぞっとするほどの快感が走る。健二はそれに引きずられ、はしたない声をあげてしまう。それが辛い。
 指が増やされ、少しずつ佳主馬を受け入れる身体ができていく。
「ここ……もらうよ?」
 内側で三本の指が、健二をノックする。その刺激にあがりそうになる声を押さえて頷くと、おでこに唇が押し当てられた。
「佳主馬……くん……」
 真っ赤な顔をして、情けない声で恋人の名前を呼ぶ。こめかみに、耳に、頬に何度もキスを落とされた。
 主導権を取られてしまうのは仕方ないが、それでもこうも任せきりなのはやっぱり口惜しい。普段口にすると怒るから、あまり言わないけれどもやっぱり年齢上としての意地もある。
 健二はひざ裏を両手ですくった。そうして、ためらいがちに脚を広げてみせる。
「健二さん……」
 正直言えば、死ぬほど恥ずかしい。まるで欲求不満みたいだと思う。
(いや……そう、だけど……)
 恋人の前に、すっかりほころんでひくつくそこを自ら晒すのは周知の極みだ。
 だが、されるばかりではイヤだという気持ちの方が強いのだから仕方がない。
 健二だって、佳主馬が欲しいという気持ちを持っている。そのことを、ちゃんと伝えたかった。
 三日間も離れていた。
 佳主馬といるのが日常になった今、三日間はもう『たかが』ではない。
 もちろん、セックスだけが一緒にいる目的ではない。ただ二人で時間を過ごすだけで幸せな気持ちになれる。同じ空気の中にいれる幸福は、離れた時間を経験していなければ身にしみて理解はできないと健二は思う。
 知らなければ耐えられる。だが、もう知っている。
(僕だって……欲しい、よ)
 広げた脚の間、佳主馬の熱が内側に入り込んでくる。
「あ……」
 屹立した先端を含まされ、かさの部分を受け入れる瞬間は今でも息を詰めてしまう。
 二人は元々繋がるようにできているわけではないのだと、健二は根っこの部分で納得してしまう。
 苦しい。
 それでも、苦しいとか痛いとか世間体だとかそんなものを飛び越えてでも、健二は佳主馬が欲しい。佳主馬の一番熱いものを内側に感じたいと思う。
 はしたない格好で年齢下の男の子を誘うとんでもない男だと言われても仕方ない。
 恥ずかしい姿は、佳主馬にならば見せられる。
 肉体だけでは満たされない。
 精神だけでも満たされない。
 どちらも、欲しいと願う欲張りな感情が恋なのだと健二は知った。
「う……ふ……ぁ……」
 根元まで深々と佳主馬を受け入れ、揺さぶられる。ぴたりと重なった肌の間で、先ほど達したばかりの健二の熱がもみくちゃにされ、簡単に兆していく。
 二人分の荷重にベッドがきしんだような音をたてた。
 突きこむ隙間に佳主馬が「健二さん」と名を呼んで、キスを求めてくる。
 汗で手がぬめって滑る。もう、脚を開く格好を保てなくて、健二は諦めた。その代り、のしかかる佳主馬の背中に手をまわす。
 夢中のキスを交わしながら、佳主馬の腕が背中に回った。そのまま抱き上げられ、繋がったまま膝の上にのせられてしまう。
「あ……ぅ……っ!」
 一番深いところまで佳主馬の熱が当たっている。幾度も突きあげられ、健二はのけぞるようにして耐える。
 奥から溢れるような甘さが全身を犯していく。
 キスが止まらない。舌を絡めあいながら腰が自然に動いてしまう。
 佳主馬の呼吸まで全部欲しがる自分の強欲にぞっとした。

「好き……」

 呼吸の隙間に、健二はそっと自分の気持ちを忍ばせる。
 感情が、溢れだすようだ。これ以上ないほど繋がっているのにまだ寂しい。もっと、近くにいれたらいいのにと思ってしまう。
「健二さん……」
 突然佳主馬の様子が変わった、と思ったら再び健二はベッドに沈められてしまった。
 そのまま容赦なく突かれる。
「健二さん、健二さん……」
 欲望が堰を切った、という佳主馬の様子にまたこみあげるものがある。
 気付いたらその腰を両の脚で絡めるようにして、自らも腰を揺らしていた。
(どうしよう、こんな……したら……嫌われる……)
 そう思いながらも、開いた脚の間に受け入れた佳主馬を離したくない気持ちばかりが走っていく。
「あ……かず……ま……」
 心を注ぐただ一人の人の名前を呼ぶと、内側でまた佳主馬の熱が質量を増す。
(だめだ、どうしよう……こんな……)
 身体が痙攣する。もっと奥に欲しくて佳主馬を締め付けているのがわかる。
 どうしようもなく淫らになっている自分を、佳主馬はどう思っているのだろうかとふと不安になる。

「健二さん……好き……好き……」

 切なげな声と共に一層深く抉られ、健二は一気に達した。
「あ……ああッ!」
 佳主馬と健二自身の腹を汚す飛沫も気にとめない様子で、佳主馬はさらに健二を穿つ。
「や……だめだ……今、そんなにされ……あ……っ」
 達したばかりの敏感な状態で与えられる強すぎる刺激にわななく。
 がつがつと貪られ、背中にすがりつく。
 佳主馬の熱が極限まで膨らみ、そして弾けるまで健二は惑乱の極みをさまよった。



「荷物、勝手に開けるけどいい?」
「いいよ、洗濯くらい自分でする」
「ムリでしょ。いいよ、僕のせいだから僕がやる」
 佳主馬が甲斐甲斐しい。上機嫌な横顔に、健二はベッドに転がったまま微笑した。
 OMCにインしていた時の、ぴりぴりとした空気がすっかり消え去っている。
 そのことが健二にはひどくくすぐったい。
 自分自身、先ほどまで空いていた隙間が今は満たされている感じだ。現金なものだと思うが、事実だから仕方がない。
「じゃあ、頼む。次の洗濯当番代わるから。あ、おみやげ、かばんの中に入ってるからもらって」
 佳主馬がぴくりと反応する。まるで野性動物だ。見えない耳がぴんと立っているのがわかる。それで健二はまた笑みが深くなる。
「選んでる時間あんまりなくて、しょぼいもので悪いんだけど」
「いい!」
 佳主馬が大声で言った。
「健二さんが僕のために選んでくれたものなら、なんでもいいよ!」
 そうしてごそごそと健二の荷物を探る。
「これ?」
「それ」
 佳主馬の手にはうさぎのマスコットのついたストラップがある。
 ピンク色の愛らしい二頭身うさぎが小さなにんじんを抱きかかえている。それは、もう立派な青年になった佳主馬にはどうにも不似合いに見えた。
「やっぱり佳主馬くんって言うと、うさぎ思いだすから……キング・カズマと比べるとかわいすぎるんだけど……」
 コントラストの微妙さに、健二は恥ずかしくて徐々に声が小さくなってしまう。
 佳主馬は微笑した。
「ね、これ買った時ゼミの人たちに『カノジョいるでしょ?』って言われたでしょ?」
「……うん」
 真っ赤になって頷く。
 佳主馬の言う通り、目ざとい女子学生にストラップを買うところを見つけられ「小磯さんカノジョいたんだ!」と驚かれ、五分後には健二が『カノジョへのおみやげを買っていた』という話がゼミ中に広まっていた。
 今までもことあるごとに佳主馬へのみやげは買っていたのだが、一度もあんな騒ぎにはなったことはなかった。誰も自分の恋人になど興味がないのだろうと思っていたのだが、どうも、単純にタイミングの問題だけだったようだと健二は悟った。
 佳主馬はにっこり笑いながら、ベッドに近づくと健二の高さに目線を合わせた。
「そんで、なんて答えたの?」
「……今、一緒に暮らしてる、すごく大事な恋人がいる。って」
 最後まで答える前に、佳主馬に唇を塞がれた。
「よし!」
 佳主馬は上機嫌だ。
「そのストラップ、別にムリして使わなくてもいいからね」
「なんで? つけるに決まってるでしょ? これ、健二さんがくれたんだよ?」
 言って少し天井を見上げる。
「うーん、でも。おろすのもったいないかも」
 健二はそれを聞いて笑ってしまう。佳主馬はじっとその顔を見つめる。
「なに?」
「さっき、ひどくしてごめん。まだ、抑えきかなくなることがあるから」
 言いながら健二の額に落ちた髪を人差し指ですくってくれる。
 先ほどまでの熱を帯びた時間を思い出して、健二は紅くなった。
「……いいよ。僕も……したかったから」
 最後の声はか細い。
 佳主馬の唇が目じりに押し付けられた。
「また、したくなった? そうでしょ?」
 すぐ近くに佳主馬の顔がある。その濡れたような瞳の奥が訴えてることを、健二はもう正確にくみ取れる。
 手を伸ばした。
 佳主馬の頬に手をあてると、引き寄せて唇を重ねる。
 そうして、離れる時小さく「うん」と応えた。
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